「リュクルゴスの史筆 稽古の姿勢を読む」
桜井万里子/師尾晶子編『古代地中海世界のダイナミズム』(山川出版社)274窶骭297
前四世紀後半にアテーナイで活躍をした政治家、理財家のリュクールゴスが、怯懦な市民レオークラテースを告発した弁論を繙き、そこに盛られる故事、先例、我々に所謂史実を検め、このような戦略が奏功する社会的な文脈を他の文献や現象から再構成して行く。同弁論は史実引証に重心を置く新機軸を打ち出したもの、と表されるが、その新機軸が受け容れられる素地、すなわちhistoriographicalな思考法、典籍志向が、裁判員たる聴衆に、また輿論に瀰漫しつつあったことを示す。