学術論文

基本情報

氏名 橋川 俊樹
氏名(カナ) ハシカワ トシキ
氏名(英語) Hashikawa Toshiki
所属 大学 国際
職名 教授
researchmap研究者コード
researchmap機関

発行又は発表の年月

1986/11

学術論文名

『道草』 ―冬への収斂―

単著・共著の別

単著

発行雑誌等又は発表学会等の名称

「稿本近代文学」第9集

開始ページ

終了ページ

概要

『道草』は、大正4年に書かれた夏目漱石の自伝的小説である。英国留学から帰朝した明治36年以降の時期の自身とその周囲を素材にしている。夏目金之助は、健三、妻の鏡子は、お住と名を変えているがほぼ忠実に人物や出来事を再現したと思われる部分も多い。従来、この小説で取り上げられることが多かったのは漱石の生い立ちの部分であるが、小論ではお住の父親のモデルにあたる中根重一に注目した。元貴族院書記官長を勤めた中根は、明治初期の貢進生からたたきあげた実務家であった。漱石が留学していた当時、第4次伊藤博文内閣の時に内務省地方局長となったが、この内閣はすぐに倒れ、浪人暮らしとなった。株や相場での失敗も重なり、漱石が鏡子と見合いをした頃(明治28年末)の勢いはまったくなくなってしまう。『道草』はこういった岳父の、古い外套一着さえ買えない「悲境」を印象的に描いている。他にも健三の兄や異母姉のみすぼらしい生活が描かれるが、昔年の栄光があるだけにその落魄ぶりは大きい。この岳父の描写がどのくらい事実を反映したものなのか、さまざまな資料や回想等を駆使して中根重一の生涯を再現し、検討を加えた。また、『道草』はこの岳父が代表するように、人間が「冬」のように寒い晩年を迎えるさまと、ストーリーが「冬」へと収斂していくことを連動させて描いていることを検証した。 80頁~106頁