本稿は,昭和前期の高等女学校実科・実科高等女学校で使用された吉田良三著『女子簿記教科書』(1936)(修正再販・文部省検定教科書)を現代語訳し,その内容をSDGs目標4およびジェンダーの視座から検証することで, 当時の女性学習者向けの会計学教育の状況を考察している. 具体的には,同著者による男性学習者向けの文部省検定中等学校教科書『中等簿記教科書』(1934)と比較し,特にジェンダーの視点から本書の特徴を分析した. その結果,本書では,男性学習者向けの教科書と比べて,単式簿記への習熟,複式簿記における伝票会計,そして例題演習がより重視されており,これらが当時の女性に期待されていた専門的技能を反映していた可能性を示唆した. また,本書のデザインと挿絵が女性学習者を意識して工夫していた可能性を指摘した. このような本書の特色とその歴史的背景の理解は,その後の会計学領域での女性の職業的活躍推進を考察する際においても有益であろう. また,国際社会の共通課題であるSDGs目標4に関連して,本書に見られるような女性の地位向上に向けた教育実践が先駆的な試みとして約90年前のわが国で実施されていたことは,今後の研究においても重要な参考資料となり得る.