「口語文体」という新しさと「恋愛」という新しさを併せ持った大正期の恋愛書簡文(ラブレター)は、当時非常に新しい種類の書簡文であり、そこに「一般女性」という要素が加われば、時代の最先端の書簡文と言っても過言ではないだろう。先端的ゆえに、内容のほか、表現においても手探りの状態であり、様々な試行錯誤がされていたことが想定される。本稿では大正期、一般女性が意中の男性に宛てた恋愛書簡文の表現における修辞・技巧について、「情愛書簡文例集」に掲載の恋愛書簡文を資料とし、恋愛書簡文が持つとされる要素を1. 親密性、親しみ、媚態、2. 強い感情の発露、3. 当事者意識の喚起、窮追、4. 生々しさ、リアリティ、5. 含み、恥じらい、ためらい、控えめながらも主張、6. 迷い、男性への判断の委ね、の6つに整理し、その要素別に見られる修辞・技巧について指摘、分析した。