論文の前半においては、1980年代半ば以降科学者集団が国際連合の世界気象機関(WMO)および「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)を通じて、気候変動枠組条約による温室効果ガス削減を推進したことに対抗して、アメリカのエネルギー産業等が気候変動の科学を歪曲する世論操作を行った過程を描いた。最新のホワイトハウス公式ページにおける、ブッシュ政権の気候変動政策の経緯の改ざんなど、これまで指摘されてこなかった事実を盛り込んである。こうした気候変動の科学をめぐる政治では、世論を味方に付けるため複雑な科学的知見を、自陣営に有利な形で平易に提示する戦術が重要である。論文の後半では、環境をめぐる利害関係者の論争の説明に使われる事例が多くみられる唱道連合モデルを批判。同モデルは、アクターの合唱連衡の計量分析に偏向しているため、世論を味方にする戦術の重要性を見失っている。そこで唱道連合モデルの修正に向けて、メディア研究における世論のフレーム化などの分析概念と融合する組み替えを提案。p.25-p.53