ピエロ・デッラ・フランチェスカの『聖十字架伝』のうち、上下三層にわたって展開する画面の最下層にある二つの戦闘場面には、他の場面には見られない金属の表面の反射光の描写がある。従来、イタリアの絵画は反射光の描写による質感の表現にはそれほどの関心を持たない。対してネーデルラントではそのような描写が盛んであり、『聖十字架伝』における反射光の描写はネーデルラント絵画の影響によるものと考えられる。しかしピエロと北方の画家との接点は見出せない。おそらくネーデルラントの技法を身につけたイタリアの画家からの間接的な影響であろう。その候補者としてはアントネッロ・ダ・メッシーナがもっとも可能性が高い。