今日、美術史学においては図像解釈学、あるいは社会史的な研究が非常に盛んであり、多くの成果を上げている。筆者の研究対象であるピエロ・デッラ・フランチェスカ研究においてもその傾向は顕著であり、代表的な研究としてカルロ・ギンズブルグのものを挙げることができる。これらの研究において特徴的なことは、文中に作品の形態や色彩など、様式的側面への言及が僅かしかないことである。このことに筆者は美術史研究者として疑問を持たざるを得ない。作品の様式的側面は意味の伝達手段に過ぎないのであろうか。実際には、何を表現するかは如何に表現するかにかかっていると思われ、作品の表現内容に関わる研究も様式面を無視できない。このような立場に立つ時、ロベルト・ロンギの研究は示唆に富む。ロンギにあっては様式分析が決定的な意味を持っているからである。今後の美術史学にあっては今一度様式研究の意義を問い直す必要があるのではないか。