15世紀に中部イタリアで活躍した画家ピエロ・デッラ・フランチェスカは、遠近法をベースとした合理的な画面構成を創造し、フィレンツェで生まれたばかりの新しい芸術を中部イタリア各地に広める役割を果たした。その作品の中に『マドンナ・デル・パルト』と呼ばれる特異な作品がある。パルトとは出産を意味し、この作品は聖母をイエスを身ごもった姿で表すものである。この図像は聖母の表現としては異例であり、その源泉を典礼において歌われる聖歌に求めることが本論の主たる論点である。加えて、当作品については帰属に疑義を表明する研究者もあり、制作年も定かでないことから、様式を検討し、ピエロ・デッラ・フランチェスカの真筆だが、一部に助手の参加の可能性があると結論づけ、制作年は1460年頃とみなした。