子どもに教育や娯楽を提供できるヴィクトリア朝の中産階級以上の家庭においては、『不思議の国のアリス』を味わう文学的素養を養うものが提供されていた。現代の読者には難解に思われるキャロルの言葉遊びや教訓詩のパロディ、ユニークに見えるワンダーランドの構成要素はすでに作者と読者が共有する社会階層の手元にあった。テクストに見られるジャンルについての問いかけ、自己言及的な箇所に着目し、「子どもの本」の歴史、特に教訓詩、教科書、そして当時、隆盛していたフェアリー・テールに対してこのテクストが自らの位置づけをどう模索しているのか、またその軌跡がどう表象されているか考察。