アメリカにおける「自然主義」「リアリズム」小説の代表作品と位置づけられているセオドア・ドライサー『シスター・キャリー』のヒロインであるキャリーが、女優として成功を収めていることの意味を考察した。アメリカ小説のヒロインの系譜を辿ったとき、ヒロインが「女優」を職業にしている小説はほとんどない。今日のアメリカン・エンターテイメントの隆盛を鑑みると、奇異に感じるほどである。キャリーが女優を目指し、女優として成功を収めながら満たされぬ気持ちを抱きつつ終わる物語の構成が、十九世紀末のアメリカの社会の実相を巧みに映し出していることを論証している。
掲載頁pp.27-53