本研究では、戦後60年間におけるファッションの概念変化と、そのメカニズムの変容を究明した。
はじめに、ファッションに関する先行研究の概説、ファッションの定義、ファッションの理論的説明、流行論の先行研究と検討を行った。流行の成立と伝播に関する既存研究を整理した結果、背景となる時代、政治や社会、文化や思想の変化により、流行の定義や流行に対する位置づけが変容していることを明らかにした(第1章)。さらに、本論の研究手法の中核をなすエスノグラフィーや路上観測学の先行研究を概説し、ファッション研究におけるエスノグラフィーのあり方を考察した。加えて、ビジュアル・エスノグラフィーの具体例を挙げ、本論文の方法論的検討を行った(第2章)。第3章から第6章では、洋装の着用がひろく一般化した戦後から現在までの約60年間の、ファッションと社会の変容(第3章)、ファッションに大きな影響を及ぼすと考えられるメディア(第4章)、ファッション産業のシステム(第5章)、ファッション・ストリートの変容(第6章)について、文献資料および定点観測に基づくフィールドワークから整理を行なった。これらを考察することで、ファッションの概念変化の痕跡を明らかにした。続く第7章では、1.ポスト・ファッション化がみられる2000年代の状況整理、2.ファッションとストリートの関係の変容、3.文脈無関連化するファッションを考察し、ポスト・ファッションの存在可能性を検討した。結章では、本論文全体を総括し、今後の課題を検討した。
本論の帰結として、ファッション・システムの自己矛盾を抱えつつあるいま、不特定多数が同時に享受するものであった流行が、自己表現のメディアとしてのファッションへ向かう現状を示唆し、ファッションの変容について新たな知見を得た。