保育現場にもインクルーシブ保育が着実に浸透し、障害児への支援や合理的配慮についての実践が活性化され、報告もされてきている。一方で、インクルージョンのための合理的な配慮等の支援は、まだ十分に検討されているとは言い難い状況にある。そのため、支援の現状は、幼稚園教諭(以後、教諭)による現場レベルでの試行錯誤が実施され、戸惑いながら実践している。インクルーシブ保育で重要なことは、個別性と共同性と折り合いながら、障害児のみならず定型発達児にとっても有益な保育でなくてはならない。社会全体として多様性を受け入れることの重要性が叫ばれているが、まずは社会全体の環境整備や合理的配慮の認知度を上げる必要がある。理想は、多様性(ダイバーシティ)を尊重し、少数派に対する差別や偏見を無くしつつ、多数派(定型発達児)の豊かな成長にも寄与していくことである。共生社会の実現には担い手の育成が重要であるが、担い手とは決して教諭や支援の専門家だけではなく、定型発達児も含まれる。そこで、本研究ではインクルーシブ保育における定型発達児に焦点を当て、インクルーシブ保育の実践が定型発達児に対してどのような点で発達支援に寄与しているかを明らかにすることが目的とし、観察から得られたエピソードを通して検討したものである。(守巧・広瀨由紀・若月芳浩)