本研究は,特別な配慮を必要とするミズキを含むクラスの担任だったワクイ先生へのインタビューを通して,幼児間の関係性が包摂に向かう保育において保育者がどのようにミズキや彼に対する周囲の幼児のまなざしを捉え実践したのかを明らかにすることを目的とする。半構造化面接で得られた省察を複線径路・等至性モデリングで分析した結果,ワクイ先生のミズキを含むクラスの幼児へのまなざしは,「ミズキも周囲の幼児も否定されないよう配慮している期(Ⅰ期)」「周囲の幼児のミズキへの興味関心の高さを実感する期(Ⅱ期)」「周囲の幼児に受け止められる中でミズキなりの成長を感じる期(Ⅲ期)」に分けて捉えることができた。ワクイ先生はクラスで3年間過ごす中で,ミズキに対し否定的な感情を抱く周囲の幼児が「自分と共通するもの」を発見したときに認識が変化し関係性も変容していったと捉えていた。その変容の過程でワクイ先生は,どの子の話も受け止めつつも同時にミズキの言動の背景等を考えることで,周囲の幼児が自分の枠組みだけでミズキを捉えにくいように配慮していた。また,クラスの規範を敢えて可視化しにくくすることでミズキが排除につながりにくい状況を生み出していた。そして,ミズキがネガティブに映り得る場面では保育者の言動に気を付けたり園全体で支援体制を作ったりするなどそれが強調されないようにする一方で,彼の得意な遊びを通して互いにつながり合う機会や行事等を通して強みを知る機会を意図的に設けていた。