本研究は仙台市博物館所蔵の紫羅背板五色水玉模様陣羽織が研究対象である。本陣羽織は大小の水玉模様は切嵌めの技法で、水玉の輪郭は撚り紐で二重に縁取りされ、デザイン性があり、また仙台市を表装する役割を担ってきた存在価値の高い作品である。損傷箇所の修復により展示、保存できる状態になった。特に羅背板の欠損、袖口と裾の玉縁、前留のボタンの修復及び復元作業は、作品の審美性に影響する重要な案件であった。修復材料の羅背板と玉縁は、専門家との細かな打ち合わせと数回の試作品を経て完成した。前留のボタンは本学で検討を行った結果、オリジナルの作品と調和がとれた仕上がりになった。修復材料の検討過程で羅背板の従来の定義と異なる新たな見解を見出した。また、裏地を修復するために、縫い目をほどくなかで、表の装飾技法である切り嵌めと撚り紐の制作工程を詳細に調査する機会を得た。本修復は修復材料の調達の在り方や染織史、縫製技術の新たな視点を得る機会となった。