1. 調理科学とは
人々は安全で栄養満点の料理を美味しく、失敗しないように作るために、長年の経験やレシピに書いてある料理の「こつ」を参考にしながら調理することが多い。その「こつ」には必ず科学的な理由がある。「こつ」すなわち調理過程で起こる一つ一つの現象を科学的に捉え、解明していくことが調理科学である。
2. 澱粉の調理特性
家庭で使用する澱粉としてまず頭に浮かぶのは、馬鈴薯澱粉(片栗粉)であろう。鶏肉にまぶして唐揚げにしたり、スープのとろみづけなど多くの場面で登場する。またお菓子作りではとうもろこし澱粉(コーンスターチ)などを使用する場合が多い。澱粉の種類は米、小麦、さつまいも(甘藷)、くず、わらび、キャッサバ、他にも多く存在し、また天然澱粉に化学的、酵素的、物理的処理を施した加工澱粉も加えるとさらにその数は増える。いずれも多少色の違いはあるものの、肉眼で見ると全て白い粉である。しかし、それらの澱粉粒は大きさも違えば形も異なり、澱粉の構成成分であるアミロース、アミロペクチンの割合も異なる。澱粉の構造については多くの研究者がその解明に取り組んでいる。天然澱粉は粘度が安定しなかったり、老化しやすかったりといった欠点もあるが、各澱粉がもつ個性的な特性は非常に興味深く、魅力的である。
3. サゴ澱粉の調理特性
赤道を中心に南北10°の間(インドネシア、パプアニューギニア、マレーシア、タイ、フィリピン、ソロモン諸島等)の湿地に自生する植物に、サゴヤシがある。このヤシの樹幹には多くの澱粉が蓄積しており、最大収量時には1本の幹から約200kgの乾燥澱粉が採取され、単位面積あたりの澱粉生産能も年間10~20 t/haと非常に高い。さらに他の作物の栽培が困難である深い泥炭質土壌においても、経済栽培が可能な唯一の作物であるとされている。サゴ澱粉は現在、日本に約17,000t輸入されており、加工され打ち粉としてうどん、そば、中華麺などの麺類や、餃子・焼売の皮などに使用されている。
我々はこれまで様々な食品にサゴ澱粉を利用してきたが、近年取り組んでいるグルテンフリーパスタをサゴ澱粉で調製する試みについて、サゴ澱粉の特性とともに紹介する。