2020年以降、家政学系の女子大学における改組・再編等が著しく、それは2015年に川上が発表した論考と大きく異なる様相を呈している。今回の講演では2015年の拙稿を基に、その後の家政系学部・学科の名称変更や学部構成を調査し分析した。2015年以降、家政学部は16大学から13大学に減るとともに、2015年段階で「生活科学部」に名称変更した大学もそこに留まらずさらなる変容を遂げていた。学科は、名称変更の程度に収まらず、学部として独立する大学がみられるようになった。特に著しいのは、住居系学科や児童系学科であった。国立女子大学では、初めての工学系学部を設立するなど、理工系を志向する女子学生の進学の視野に入れている。「住居学」は本来、家政学の専門領域の名称であったが、工学部や美術系学部にはなかった家政学系の視点(主として、生活者の視点)を取り入れ、新たな建築系学部として独立化していた。家政学が本来主軸としていた「生活者」の視点は他の学問に取り入れられていた。2015年当時、川上は家政学部の現状を「派生と分化」と示したが、2024年現在、すでに「霧散化」する方向に在った。家政学部の存在は、家政学という学問の所在と不可分である。そうであっても家政学の行方を考えるにあたり、柏木博が1995年に著した『家事の政治学』(青土社)で章立てして記した「未完の家政学プロジェクト」という文言を導きに、忘れ去られ、奪い取られたその視点の可能性に言及した。