近年の道徳の教科化において一考すべき家庭科との関係を整理すべく、家庭の本質の側面からその独自の視点と家庭科教育に課せられている事柄を問うた。まずは家庭科と道徳に関する研究の精査を行ったが、その数は少なく、戦後の家庭科教育成立に関する状況が、道徳と一線を引く背景にあることが推察された。道徳の教科化が現実的になるにつれ2015年以後採録文献数は急増するが、シンポジウムの記録などが主であり、論文としての立論を見ることはできなかった。筆者は家庭科教育学会誌に特別寄稿された教育学者松下良平氏の家庭科と道徳をめぐる論考を整理し、その論考において特筆されたリベラリズムとケア論のジレンマに注目する。家庭科教育の矛盾ともいうべき問題をいかに乗り越えるかは、家庭の本質に迫る必要があると考え、人間存在論的アプローチからの家庭論を展開した。学界の一部には家庭科において家庭を扱うことの難しさから家庭そのものに迫ることを避ける傾向があり、家庭の本質を踏まえ現実を超える可能性を思考の根源に据えることを唱えた。