本稿は中国都市住民の食料消費の動向を把握した上で,所得階層別の食料需要を需要体系分析によって分析した.需要の支出弾力性や価格弾力性の計測結果からは,中国の都市住民の支出と価格の変化に対する食料需要の変化は,所得階層ごとに相違があることが認められた.例えば食用穀物・肉類・卵類はどの階層にとっても必需品であるが,所得が高いほど所得の上昇とともに増加する食用穀物に対する需要が少なくなり,逆に肉と卵に対する需要が増えることがわかる.また,魚介類はほとんどの所得階層にとっては贅沢品であり,その他の食料支出は中低所得以下の階層にとっても贅沢品であり,これらの品目については家計所得の上昇に伴い,支出シェアが増えることが確認された.さらに価格弾力性の計測により,所得が低い家計においては肉・卵・魚介類・その他の食料品の価格変動に対する反応は比較的弾力的であることや,主食の食用穀物の価格変動に対する反応は相対的に非弾力的であることがわかった.これは所得が低い家計にとって食用穀物が重要な主食であり,価格が上がっても消費を減らせないことを反映している.最後に,交差価格弾力性の計測により,高い所得階層の家計ほど,主食と他の食料の代替関係がより顕著であることがわかった.
本稿の推計からは,全ての所得階層で魚介類の需要が支出と価格の変化に対して弾力的に変化することや,食用穀物類の支出弾力性が低所得階層を中心に大きいことがわかった.今後,中国の一人当たり所得が上昇するのにともない,これらの品目の国内需要が増えることが予想される.また,高所得階層では食用穀物と動物性たんぱく質源の食料消費はその他の食料と純代替関係にあることから,所得が上昇するにつれて動物性たんぱく質の消費が増えるものと考えられる.