本稿は日本と台湾における財政支出の統計を用いて,農業財政支出の総額や使途が農業団体の集合行為によって決定されるという仮説を検証した.第3 節の計量分析からは,財政に占める農業財政支出のシェアが農業部門の集団規模と逆の相関を持つこと,農協の活動規模・農業労働者に占める兼業農家の比率・経営規模のばらつきといった農業部門内の構成が財政支出の公共性に影響することが示された.
農業財政支出の果たすべき役割の一つは,民間の市場メカニズムによっては十分に供給されない公共財を供給することである.特に,試験研究や技術改良普及などへの支出や基盤整備や災害復旧などの公共投資は,比較劣位化が進む日本・台湾の農業部門が生産性を上昇させるために重要である.それにもかかわらず,本稿の分析結果からは,農業部門内の構成の変化が私有財的な性質を持つ財を追求する集合行為を発生させることが示唆されている.こうした動きは日本と台湾における近年の農業財政支出からも見取れる.例えば,近年の日本では,政治的な理由によって農産物価格の下落に対して価格支持や所得補償のための財政支出が増加している.また台湾でも,農業政策が農家所得の維持と農家の福祉向上のために行われる傾向が強まっており,農業生産性を上昇させるための公共投資は十分とは言えない.
日台両国における農業財政支出を社会的な必要性の高い財の供給に充てるためには,政策決定過程の透明性を増すことによって非効率的なレントシーキング活動を抑制することが必要になるだろう.