学術論文

基本情報

氏名 張 采瑜
氏名(カナ) チョウ サイユ
氏名(英語) Chang Tsaiyu
所属 大学 ビジネス
職名 准教授
researchmap研究者コード
researchmap機関

発行又は発表の年月

2008/03

学術論文名

台湾農業の構造調整と農地転用問題(peer-reviewed)

単著・共著の別

単著

発行雑誌等又は発表学会等の名称

農業経済研究別冊:2007年度日本農業経済学会論文集

2007

開始ページ

427

終了ページ

434

概要

本稿は,台湾における農業構造の改善が進まないことの原因を小規模農家の農地保有動機という観点から検討するために,台湾の農地に関する土地利用規制を検討したうえで,農地集積を阻害する要因について論じた.そして,本稿は農地集積の阻害要因の中で最も重要なのは農地転用規制の不備であることを指摘し,農地転用の実態について詳しく論じるとともに,転用の実態を一層深く把握するために台湾における1992 年から2003 年までの農地転用収入を試算した.本稿の推計は,農業のGDP 額と同じ桁で計算される莫大な転用収入が毎年発生していることが示された.このような莫大な農地転用収入は,台湾の農業構造にどのような影響を与えているだろうか.最も説得力のある説明としては,農地転用収入が農業依存度が小さく耕作意欲も少ない小規模農家が農地を保有して農業部門に留まり続ける動機を与えた,というものである.よって,農地転用の規制を強化することにより農地転用収入に対する期待を縮小させることにより,小規模農家が農地を保有・耕作する経
済的な動機が低下し,農地が営農意欲の高い経営体へと流動化することが期待される.本稿の推計結果は,農地転用の実態についてより詳細な検討を行う必要性を示したというもう一つの意義を持つものである.従来,台湾政府は農地を私人の財産と見なしてきたため,農地の取引価格資料についての公式統計が整備されていない.その結果,農地に関する既存研究が抽象的な政策論にとどまっていた.本稿の推計結果は,そのような転用問題の実態を把握するための叩き台としての視点を提供するものである.また,本稿の論点は台湾を中心として日本と比較するものであるが,小規模な家族経営が中心となっているアジア地域で経済が成長した場合に,日本や台湾と同じような農地転用問題が同地域の途上国でも発生する可能性がある.特に日本と台湾は,強権的な政府により徹底的な農地改革が行われたという歴史を共有しており,現在の農地問題にも多くの共通点がある.よって日本や台湾における農地問題に関する研究蓄積はアジア地域の重要な先例として,今後の途上国における農地政策の啓発になりうるものと考えられる.