本研究では,エピソードを通して,対人面に配慮を要するリョウ(R)の道徳的規範の逸脱に敢えて問題意識を向けない保育者の介入行動および子ども同士の解決方略が生起する文脈を明らかにし,その働きや意味を探った。リョウの道徳的規範の逸脱に敢えて問題意識を向けない保育者の介入行動は,3つにわけることができた。また保育者の介入行動を通して,リョウの道徳的規範の逸脱が周囲の子どもと共有されないことにより,逸脱行為として集団から可視化されにくくなり,それがリョウに対する特定の見方の形成を難しくし,排除が生まれにくい状況を作り出していた。また,子ども同士の解決方略では,3つの状況に分けて捉えることができた。子どもたちの解決方略では,周囲の子どもが自らの行動や状況を捉えなおすことにより切り抜けようとしているとともに,結果としてリョウの行動を強化しないことにつながっていた。(広瀨由紀・岩田美保)【査読有】