本論文では、2009年公布、翌年に施行されたインドの「無償義務教育に関する子どもの権利法」(The Right of Children to Free and Compulsory Education Act 2009)により、それまでのノンフォーマルエデュケーションを含む同国の義務教育が、徹底した就学義務制に転換することを明らかにしている。①無認可私立学校の粛清と正規の教育制度への包摂、②私立学校に対する社会的弱者層の無償入学割り当て(25%枠)の強制、③保護者や地域社会に対する子どもの就学義務、を主軸に学校教育の質向上と学校教育による義務教育の実施を明確にしている。これに伴い、家庭で専ら教育を行い、州政府や国が実施する学力試験を合格して上級学校に進学したり、大学に入学するというルートは閉ざされる見通しとなった。RTE法が施行された当初こそ行政府の姿勢は曖昧であったが、訴訟を通じて、低レベルの教育(例えば、無認可学校)がこれ以上普及することへの危惧を認め、いわゆるホームエデュケーション、ホームスクーリングによる義務教育を否定したのである。