夏目漱石が1907年1月に発表した中編小説『野分』を取り上げ、主に1905・1906年頃に社会問題となっていた〈青年の「煩悶」問題〉との関係を論じた。この小説の主人公のひとりで、大学を卒業したばかりの高柳周作は、文学で身をたてようという野心を抱いているが、貧困と病気のために失意の中にいる。この設定は、肉体的にも精神的にも虚弱で、思想的・宗教的「煩悶」ばかりしていると世間から見られていた現代青年像を反映させたものである。発表では特に、新聞や雑誌の記事や特集をもとに当時の「青年」が具体的にはどんなふうに映り、どんな解決策が提示されていたのかを調べることで、漱石の「青年」に対するスタンスの取り方を探り、この作品ではどんな希望や解決策をもたらそうとしているか、について考察した。