「開化の殺人」は、大正7年に発表された芥川の短編である。題名の通り、開化期の明治を舞台に、華やかな劇場で「殺人」が行われるのを、その殺人者の「遺書」という形式で描いた作品である。ここには、幕末から明治の文人・成島柳北の名が出てくる。柳北独特の情緒あふれる漢文体の文章がこの作品の背景になっている。また、明治11年に新装開場した「新富座」は、河竹黙阿弥の〈ザンギリもの〉の舞台となった、まさに「開化」そのものを象徴する劇場であった。そこで「殺人」が行われる設定にした、芥川の意図を考察した。ほかに〈流燈会〉との関係も検討している。 68頁~84頁