森鴎外の『青年』は、明治43年に「スバル」に連載された、文字通りの青年小説・青春小説であり、漱石の『三四郎』や『それから』に触発されて書かれたものである。しかし、『三四郎』などとは違い、『青年』の主人公・小泉純一は非常に冷静でモノに動じないタイプである。彼は作家を志して田舎から上京してくるが、初めての東京にもあまりとまどわない。純一が唯一まどわされ、翻弄されるのは坂井未亡人との〈関係〉であるが、これも積極的な〈恋愛〉にはならず、彼の態度はすべてにおいて「受身的(パッシヴ)」である。このことを作品に即して検証し、どうして鴎外はこのような青年を造型しとのか考察した。 49頁~61頁