夏目漱石の笑った写真が、「ニコニコ」という雑誌の大正四年一月号に掲載された。その写真が写された経緯について漱石は随筆『硝子戸の中』で詳述している。要するに〈笑顔〉を強請され、それを拒否したにも拘らず、掲載された写真の漱石は笑っていた。写真が修正されて、笑顔が強制されたわけだ。本論では、その「ニコニコ」という雑誌の性格や、その主宰者牧野元次郎について調査した結果をもとに、漱石とニコニコ笑顔の皮肉なめぐり合わせについて考察した。貯蓄銀行頭取という牧野の預貯金推進の世間的発想や雑誌「ニコニコ」の笑顔絶対主義がいかに漱石のもつ気分とミスマッチなものかを明らかにした。国会図書館蔵の雑誌コピーと、日本近代文学館所蔵の写真を図版として掲載した。 四五頁~五二頁