主人公小川三四郎は東京帝大に入学したばかりの〈知識人〉候補生である。彼は恋愛問題や将来への不安などの悩みを抱えているが、経済的に豊かで自分中心の若者らしい弱点も持つ。〈貧困〉や〈生活難〉などへの関心や想像力が薄いことだ。三四郎が若い女性の「轢死(鉄道自殺)」に遭遇する場面はこれまでにも重要性が指摘されてきたが、本論では『三四郎』連載当時の新聞の社会面を参照したうえで、漱石が描こうとした貧困層と中間層の対照、あるいは庶民と〈知識人〉との対置という視点から「轢死」の問題を取り上げた。また、冒頭の「汽車の女」や広田の友人の中学教師などが抱える〈生活難〉についてもその観点から考察した。将来的には〈新中間層〉の知識人予備軍である三四郎の周囲にこれらのの人物・事件を配した漱石の意図は何か。その意義について論じた。 二一頁~三七頁