「民衆世界の抒情詩」
戸谷高明編『古代文学の思想と表現』(新典社)
戸谷高明氏編纂による論文集の一篇。古代人といえども個の苦悩や抒情は感じているはずであるが、万葉恋歌の多くは類型表現によっている。本稿は「民衆世界の抒情詩」と題し、中国少数民族モソ人の嘆きの恋歌のあり方をモデルとして用いることにより、万葉恋歌の多くは宴の場で聴衆とともに虚構の嘆きとして「遊ばれた」ものであり、そのなかで自らの個の現実の嘆きを、類型による虚構の嘆きと重ねることにより虚構化、対象化し、「遊んでしまう」ことにより昇華するというシステムがあったことを論じた。(p500~513)