西郷信綱が「女の挽歌」から「男の挽歌」へという挽歌史のメルクマールとして捉えた人麻呂挽歌のありようを、中国少数民族イ族の葬送儀礼のあり方をモデルとして考察した。西郷が述べるように死の文学には、性原理の規制が強く働いているが、歴史的変化として現れるわけではなく、葬送儀礼内部で性原理の対立は有効性をもっている。一方、人麻呂挽歌はイ族の男性原理的表現とともに女性原理的表現をも有しており、それは葬儀から距離を置いたところで行われるモソ人の同性間の歌掛けにみられるような場の性質によりつつ、葬送儀礼の歌を再現していくというような、葬送儀礼そのものにおいて歌われうるような表現とは異なる悲しみの表現の質を獲得したのだと述べた。(p23~29)