平安時代の貴族たちが和歌を用いて、コミュニケーションをしたのはよくしられるところであるが、本稿では特に「物」を伴う、もしくは「物」のみではじまるコミュニケーションについて考察した。「物」を用いたコミュニケーションは、その「物」が持つイメージを受信者がどう読みとるか、という謎かけをはらんだ「表現」といえる。歌集からは、実際の生活の場で活発になされていたことがうかがえるし、従来解釈の分かれていた『和泉式部日記』冒頭の「橘の枝」も、「物」を贈ることから始まったコミュニケーションであることに着目して読むと、そこに用意された豊かな表現世界の描出が発見できる。