不自然な〈笑い〉ー『しのびね物語』の世界の変質ー
『近畿大学日本語・日本文学』第2号
中世王朝物語には悲恋遁世譚と称される物語群があり、その先駆的作品が『しのびね物語』であった。この物語ははその名に「忍び泣く」ことを持つ書名のとおり、物語中には「涙」「泣く」語が頻出する。だが、同時に「笑ふ」「笑む」など〈笑い〉に関する語が他の悲恋遁世譚と比較しても頻出している。悲恋の雰囲気を隠滅しかねない〈笑い〉の世界が物語の内実とどのようにかかわっているか考察した。