王朝物語は必ず和歌を内包する。中でも作中和歌は、口ずさまれたり、手紙として書かれたりしながら作中人物の、あるいは読者とのコミュニュケーションとして働き物語世界を描いてゆくといえる。その作中和歌の在り方をみてゆくと、管絃にのせた和歌が物語に散見していることに気付く。それは『宇津保物語』にはみえるが『源氏物語』には一首もみられず、にもかかわらず、後期物語にはまま描かれるといった特殊な和歌の詠みぶりの一つなのであった。「笛」を吹きながら「和歌」を詠みあうという、不可能にみえるこの和歌提示の在り方が、物語の中でどのような意味を持つのか考察した。