「日本文学」というフィールドで、領域横断的に思考を問い直すような発信=発進力を持った理論的言説を紡ぎ出そうとする試み。
全360頁。
共著者:松井健児、ラジャシュリー・バンディ、レイン・ラウド、藤井貞和、安藤徹、アラリ・アリック、ハンク・グラスマン、木村朗子、ダリン・テネフ、深津謙一郎、イヴ・ジマーマン、高木信
本人担当部分:「「鼠三部作」から『ノルウェイの森』へ―一九七〇年の死者の記憶をめぐる村上春樹テキストの変容」(p254~p273)
過去の記憶の想起(語り直し)という観点から、80年代に発表された村上春樹作品の位置づけを再考したもの。80年代初頭の「鼠三部作」を特徴づける、初期村上春樹特有の韜晦を伴った過去の想起の仕方が、連合赤軍事件に帰結した60年代的な主体化の様式を批評する70年代的な時代精神に根ざしていたことを確認したうえで、80年代後半の『ノルウェイの森』においてそうした語りの戦略が失効する点を、80年代消費社会における村上春樹作品の大きな変化として指摘した。