日本文学国際シンポジウムでの成果から、日本文学研究の現在を見据え、新たなる批評理論を提唱する論文集。
全421頁。
編者:ハルオ・シラネ、藤井貞和、松井健児
共著者:ハルオ・シラネ、木村朗子、キース・ヴィンセント、藤井貞和、イヴ・ジママーン、ワイジャンティ・セリンジャー、デーヴィッド・バイアロック、高木信、深津謙一郎、生方智子、安藤徹、内藤まりこ、松井健児
本人担当部分:「振動する非自己―村上春樹のコミットメントとトラウマ」(p237~p259)
表現が抱えるトラウマという観点から、村上春樹の連作短編集『神の子どもたちはみな踊る』の最終話「蜂蜜パイ」のハッピーエンディングの意味を考察した。この作品は、前作「かえるくん、東京を救う」の救いのない結末を書き換えたものだが、「かえるくん」には、作家がノモンハンで体験した「地震」の恐怖が転位して語られており、その恐怖に蓋をするための書き換えが、逆にトラウマを顕在化させてしまう逆説を明らかにした。