筆者が執筆したのは「『家庭の天使』としての子ども――若松賤子訳『小公子』のジェンダー」。若松賤子訳『小公子』(明23~25)は、ロングセラーを記録し長らく児童文学の祖として愛されてきた。しかし、児童文学として高い評価を得てきた一方で、その同時代的な文化史的意味は必ずしも十分に論じられてきたわけではない。とくに、メディアとの関わりを念頭においた、小公子セドリックの〈子ども〉像の問題には、残された課題も多い。本稿では、こうした点を念頭に置きながら、新たな子ども像が編成されてようとしていた明治二十年代、子どもに向けられたいかなる言説が語られ、また、それを取り込むいかなる家庭幻想が作り上げられようとしていたかを、翻訳小説『小公子』の分析をとおして考える。p.47~p.69