科学的な言説と大衆的な不安が交叉するなかで誕生した近代の探偵小説的なものの系譜を追う。全284頁。
編者:吉田司雄
共著者:吉田司雄、原仁司、高橋修、一柳廣孝、森岡卓司、永野宏志、小松史生子、紅野謙介
本人担当分:近代日本文学の出発期と「探偵小説」――坪内逍遙と黒岩涙香(p79~p109)
坪内逍遙と黒岩涙香の探偵小説のディスクールを論ずる。とくに逍遙における「探偵小説」への関心は、作中人物の意識に沿いながら、かつそれを対象化し、そこから物語を展開させていくようなパースペクティブ――新たな〈語り〉の場獲得の試みと深く関わっていた。この意味で、近代文学研究において正統的な小説の対極にあるとして軽んじられてきた「探偵小説」によって、近代リアリズム小説の方法が試みられていたということを明らかにする。