岩波講座『文学』中の第10巻「政治への挑戦」――同時代の言説空間のなかで政治に向かう文学を論ずる。全276頁。
編集委員:小森陽一、富山太佳夫、沼野充義、兵藤裕己、松浦寿輝
共著者:小森陽一、川田潤、関礼子、野谷文昭、望月哲男、富山太佳夫、高橋修、五味渕典嗣、有田英也、細見和之、代田知明、島村輝
本人担当分:冒険小説の政治学――『浮城物語』の世界像(p137~p153)
政治小説とナショナリズムの逆説を論じる。政治小説ブームの末期に現れた『浮城物語』は、単に国家の威信を発揚させようという「国権小説」と括ることはできない。自国の優位性を示すためには、他国のありようを模倣しないではおられず、他国を植民地化するためには、みずからも植民地化されなければならない。それは、むしろ、転倒した「国権小説」とでもいうべきではないと論ずる。また、『浮城物語』は、国家の枠を逸脱して海洋を浮遊するというラジカルな部分を多く含み持っているのだが、作中人物たちは個人の欲望を追求しながら離脱したはずの国家の欲望を模倣してしまっている。ここにもナショナリズムの逆説がある。