アレゴリー小説としての『虞美人草』――一種の勧善懲悪主義?
『漱石研究』15 翰林書房
ながらく勧善懲悪小説として意味づけられてきた『虞美人草』を、「美文」的な語りという観点から論ずる。漱石は常に新たな語りの創出に精力的な実験を試みていたことはよく知られている。こうした小説改良の原点にあるのが、「美文」調の語りを採った『虞美人草』についての失敗の意識であった。それは、『虞美人草』以降、漱石は二度と「美文」的な語りを選ばなかったことにも表れている。勧善懲悪主義と密接な関わりをもつこの「美文」調の語りからの離脱が、意識的な小説改良の重要な起点になっていると考える。p101~p110