ネルヴァル『東方紀行』スイスまでの旅 ― 案内書、写真機、時刻表をもたない旅 ―
東京大学仏語仏文学会『仏語仏文学研究』第42号(田村毅先生退官記念特集号)
本稿ではネルヴァル著『東方紀行』「序章」のパリからスイスに至る道のりの記述を研究対象とし、写真機、案内書、時刻表、という観光旅行の三種の神器を持たない旅として読解した。また、この記述がいかにロマン派時代の旅行記と大きく異なるかを論考した。それは、案内書の記述する「必見」のものを見ず、時刻表の正確な情報を必要とせず、想像の土地を現実によって変質させない旅であり、読者との対話によって成り立つ旅なのである。